韻を踏んだ言葉やフレーズを耳にしたとき、多くの人がその美しさや心地よさに魅了されます。なぜ韻を踏むと気持ちいいのでしょうか?
これは、単に音の響きが美しいからだけではありません。韻には私たちの脳に直接働きかける力があり、それが私たちの認知や感情に深く影響を与えるのです。
韻を踏んだフレーズはリズムや音韻の繰り返しがあり、それが音楽のような効果を生み出します。音楽は、古くから人間の感情や記憶に強く作用することが知られており、韻も同様に私たちの脳内でポジティブな反応を引き起こします。さらに、韻を踏むことで文が覚えやすくなり、言葉がより強く心に刻まれるのです。
この心地よさの理由は主に二つあります。一つは、キーツのヒューリスティックと呼ばれる理論です。これは、韻を踏んだ言葉が美的に心地よいため、私たちはそれを真実であると感じやすくなるというものです。美しいものは真実であると感じる傾向がkあるため、韻を踏んだフレーズは自然と信頼されやすいのです。
もう一つは、流暢性のヒューリスティックという理論です。これは、情報を簡単に処理できると、それが信頼できると感じるというものです。韻を踏んだ言葉は認知的に処理しやすく、スムーズに頭に入るため、私たちはそれを信じやすくなるのです。
(ヒューリスティックとは法則というよりは過去の経験や直感に基づいた、科学的・論理的な厳密性は必ずしも持たない経験則のことです。)
なぜ韻を踏んだ時に気持ちいいのかと言う問いに対しては、韻を踏むと言うのは、一種の洒落(しゃれ)のようなもので、言葉遊びをして、制約がある中それが音韻的にピシッとと決まるという洒落を言って決めた時のような気持ちよさがあるということも言えます。その気持ちよさは音楽的な気持ちよさと似ているのかもしれません。実際、しゃれを思いついて口にすると気持ちよさを感じる人も多いですよね。
音韻的に似ている、あるいは同じ言葉を使った遊びがピシッと決まるのが韻を踏むということですので、そこにはパズルを解いたような気持ちよさがあり、その韻を踏む気持ちよさは日本の俳句で五七五という制約の中で言葉をピシッと決めることができた時の気持ち良さと同じとも言えます。
最新のポップミュージックにしても、ベートーヴェンの第9でも言えることですが、欧米の音楽の歌詞は確かに韻を踏んでいることが非常に多いですよね。
このように、韻には私たちの脳に働きかけ、ポジティブな感情や信頼感を引き起こす力があります。次に、この韻律による理由効果がどのようにして私たちの認識に影響を与えるのか、詳しく見ていきましょう。
韻律による理由効果(Eaton–Rosen現象とも呼ばれる)とは、韻を踏んだ格言や諺が、より正確で真実味があると感じられる認知バイアスのことです。以下では、この現象がどのようにして私たちの認識に影響を与えるのかを探っていきます。
実験では、韻を踏んだ格言と韻を踏まない格言を比較して評価しました。その結果、韻を踏んだ格言は一貫してより真実味があると評価されました。例えば、「What sobriety conceals, alcohol reveals」(節制が隠すものを、アルコールが明らかにする)は、「What sobriety conceals, alcohol unmasks」(節制が隠すものを、アルコールが暴く)よりも高く評価されました。これは、韻の存在が内容の真実性の認識に大きな影響を与えることを示しています。
この効果の背景には、キーツのヒューリスティックと呼ばれる理論があります。これは、人々が文の美的特質に基づいてその真実性を評価するというものです。ジョン・キーツの有名な一節「Beauty is truth, truth beauty」(美は真実、真実は美)が示すように、美しい韻律を持つ文は、より真実味があると感じられるのです。
さらに、流暢性のヒューリスティックという理論もあります。これは、認知処理が容易なものを好む傾向があることを示しています。韻を踏んだ格言は認知処理が容易であるため、その内容がより信頼できると感じられるのです。
韻を踏んだ格言は記憶に残りやすく、響きが気持ちよいだけではなく説得力も高いです。研究によれば、韻を踏んだ格言はその影響を強化するヒューリスティックとして機能し、より記憶に残りやすく、受け入れられやすいことがわかっています。例えば、”Birds of a Feather Flock together”(直訳は;同じ種類の羽の鳥は群れをなす。そこから転じて;「類は友を呼ぶ」の意味)。
「格言における韻律の理由」という研究では、韻を踏んだ格言がより記憶に残り、説得力があると結論付けられています。
日本で俳句や川柳を作るときは五七五と言った音節の数やリズムでなければならないという決めごとがありますが、これと同様に英語や他のヨーロッパの言語で詩を書くときは韻を踏まなければいけないという絶対的なs暗黙のルールがあります。
セブンイレブンの昔のキャッチコピー:
“Oh,Thank Heaven, Seven Eleven!”
日本では 「セブン イレブン いい気分」と言うコピーが使われた。
インテルのキャッチコピー:
“Intel Inside”
日本語では「インテル 入ってる」。そのまま訳しているのに日本語も韻を踏んでいるという珍しい例。
バンド名:
アメリリカの他民族バンドでKid Creole & the Coconuts (キッドクリオールアンドココナッツ)というのがあります。 彼らの音楽に触発された日本のバンドが「米米クラブ」。共にKの音の韻を踏んでいます。
アップル:Think Diffrent
マクドナルド: I’m loving it! も iの音で韻を踏んでいる。
ケンタッキーフライドチキン:It’s Finger Licking Good! (指をなめるほどおいしいの意味)
英語ではなくドイツ語ですが、以下はベートーヴェンの第九「合唱」の歌詞の一部です。
Wem der große Wurf gelungen
Eines Freundes Freund zu sein
Wer ein holdes Weib errungen
Mische seinen Jubel ein!
各文の末尾が nの音で終わり、きれいに韻を踏んでますね。
韻は言葉のどの部分で踏むかによってその効果や印象が異なります。韻には主に3つのタイプがあります:頭韻、中韻、尾韻です。
韻を踏むとなぜ気持ちいいのか?そしてなぜ韻を踏むということが行われているのかを見ていきました。
韻律による理由効果は、日常生活やビジネス、教育などさまざまな場面で応用できます。例えば、広告やキャッチフレーズに韻を取り入れることで、そのメッセージがより記憶に残りやすく、信頼されやすくなります。また、教育現場で韻を使った教材を作成することで、生徒の記憶力を高める効果が期待できます。
このように、なぜ韻を踏むことが気持ちいいのかという理由を考え、韻律の持つ力を理解し、効果的に活用することで、私たちのコミュニケーションの質を向上させることができるのです。韻を活用して、よりインパクトのあるメッセージを伝えましょう。