子供がぬいぐるみを大切にする姿は、どの国でも見られる普遍的な光景です。では、なぜ子どもはぬいぐるみが好きなのでしょうか?心理学的な視点や発達の観点から、子供達がぬいぐるみに惹かれる理由を探ってみましょう。
ぬいぐるみは柔らかく、抱きしめることで安心感を与えてくれる存在です。特に、親や保護者がそばにいないときに、ぬいぐるみを抱くことで子供の心が落ち着くことが研究でも示されています。「誰か」がそばにいてくれるという錯覚を起してくれ精神的な支えとなるとも言えます。
心理学では「トランジショナル・オブジェクト(移行対象)」と呼ばれ、母親や保護者からの自立を促す役割があると考えられています。これは赤ちゃんが成長し、周囲の環境に適応する過程で非常に重要な役割を果たします。
*「セキュリティブランケット(security blanket)」とは、心理的な安心感を得るために子どもが手放せない毛布などの布やぬいぐるみのことを指します。(Security=安心、防護) セキュリティブランケット効果は、子供がぬいぐるみを好む最も一般的な理由と言えます。
子供はぬいぐるみを「友達」として扱い、話しかけたり、ごっこ遊びをしたりします。これは想像力や創造力の発達につながります。
例えば、「ぬいぐるみに食べさせるふりをする」「寝かしつける」、「挨拶をする」といった遊びは、日常生活の模倣を通じて学びの機会となります。こうした遊びを通じて、子どもは社会的なスキルを身につけていくのです。
幼い子どもは自分の感情を言葉でうまく表現できないことが多いですが、ぬいぐるみに対して感情を託すことで気持ちを整理しやすくなります。
例えば、
ぬいぐるみを「他者」として扱うことで、共感力(エンパシー)が育ちます。
例えば、「ぬいぐるみが寒そうだから毛布をかけてあげる」「寂しそうだから話しかける」といった行動を通じて、他人を思いやる気持ちが育まれます。このような体験は、将来的に友達や家族との関係を築く上でも役立ちます。
ぬいぐるみのふわふわした感触は、触覚を刺激し、リラックス効果をもたらします。特に赤ちゃんの頃は視覚よりも触覚が発達しているため、手触りの良いものに強く愛着を持ちやすいと言われています。
また、ぬいぐるみを抱くことで体温が伝わり、安心感を得ることができるのも魅力の一つです。
ぬいぐるみは「寝るときに一緒にいるもの」「出かけるときに持っていくもの」として、生活のルーチンの一部になりやすいです。
例えば、
といった習慣が生まれ、子どもが日常のリズムを整えやすくなります。
親が子供にぬいぐるみを与えることが多いため、それが「大切なもの」として認識されるようになります。
また、親がぬいぐるみを使って子どもと遊ぶことで、愛着がさらに深まり、ぬいぐるみを大切にする気持ちが育まれることもあります。
子どもがぬいぐるみを好きになる理由には、安心感を得られること、想像力や社会性を育てること、感情を表現しやすくなることなど、さまざまなファクターが関係しています。特に「トランジショナル・オブジェクト」としての役割は大きく、成長において重要な存在となります。
大人になっても「子どもの頃のお気に入りのぬいぐるみ」を覚えている人が多いのも、この愛着の深さが関係しているのかもしれませんね。
ぬいぐるみの代表格といえば「テディベア」ですが、その名前の由来はアメリカ第26代大統領 セオドア・ルーズベルト(Theodore Roosevelt) にあります。
1902年、ルーズベルト大統領が狩猟に出かけた際、仲間が弱った子グマを捕まえ、大統領に仕留めるよう勧めました。しかし、ルーズベルトは「そんなことはできない」と拒否。この話が新聞に掲載され、大統領を称えて「Teddy’s Bear(テディのクマ)」というぬいぐるみが作られたのが始まりです。
現存する最古のぬいぐるみは、古代エジプトで発見された 布と藁でできたクマのぬいぐるみ だといわれています。
紀元前3000年頃のものとされ、子どもが遊んでいた痕跡が残っていることから、おもちゃとして使われていたと考えられています。
心理学的研究によると、ぬいぐるみを抱くことで ストレスホルモン(コルチゾール)の分泌が減る ことが分かっています。特に不安を感じやすい人や、孤独感を抱える人にとって、ぬいぐるみは心理的な安心感を与える存在になるそうです。
これは子どもだけでなく 大人にも有効 で、実際に「アニマルセラピー」では、動物の代わりにぬいぐるみを使うケースもあります。
ぬいぐるみが古くなったり破れたりしてしまったときに、修理・クリーニングをしてくれる「ぬいぐるみ病院」が世界各地にあります。
日本では「ぬいぐるみ病院」という名前の専門店がいくつか存在し、特に愛着のあるぬいぐるみを修理するために大人になってから依頼する人も多いそうです。
海外では「Teddy Bear Hospital」という名前で、子どもたちに医療への恐怖を和らげる目的のワークショップが行われることもあります。
ぬいぐるみは 宇宙飛行士の相棒 としても活躍しています。
2019年、ロシアの宇宙船「ソユーズMS-09」に乗って宇宙へ行ったのは、ロシアのアニメキャラクター「チェブラーシカ」のぬいぐるみでした。
また、ぬいぐるみは無重力環境でも使いやすいため、宇宙飛行士が精神的な支えとして持ち込むこともあるそうです。
多くの人にとって可愛らしいぬいぐるみですが、実は「恐怖の対象」になることもあります。
「ペディオフォビア(Pediophobia)」と呼ばれる症状は、ぬいぐるみや人形に対する強い恐怖を感じるもので、特に目が大きいものやリアルなデザインのものを怖がるケースが多いそうです。
この現象の背景には、「不気味の谷(Uncanny Valley)」という心理学的な概念が関係しており、人間に似ているが完全に人間ではないものに違和感を覚えることが原因だと考えられています。
子どものころに大切にしていたぬいぐるみを、大人になっても手放せない人は意外と多いです。
ある調査によると、イギリスでは約40%の大人が「まだぬいぐるみを持っている」と回答 し、そのうち半数以上が「抱いて寝ることがある」と答えたそうです。
これは単なる nostalgia(懐かしさ)だけでなく、ぬいぐるみが心理的な安心感を与えることが関係していると考えられます。
ぬいぐるみは子どもが好きなおもちゃというイメージがありますが、心理学や歴史、宇宙飛行士のエピソードまで、さまざまな興味深い話題が詰まっています。
あなたの身の回りにも、お気に入りのぬいぐるみや、昔大切にしていたぬいぐるみがあるかもしれませんね。