2025年1月に発生し、現在も続いているロサンゼルスの大規模な山火事は、甚大な被害をもたらしました。カリフォルニア州は例年、乾燥した気候や強風の影響で山火事が多発しますが、今回起きている山火事もまた、数万人の避難者と広範囲にわたる被害を引き起こしています。
しかし、このような大規模災害が発生すると、必ずと言っていいほど浮上するのが 陰謀論 です。今回のカリフォルニア・ロサンゼルスの山火事でも、さまざまな陰謀論がSNSを中心に広まり、アメリカ国内だけでなく、国際的にも拡散されています。本記事では、現在広がっているロサンゼルスの山火事に関する陰謀論の内容と、それがなぜ人々に信じられるのかについて詳しく解説します。
山火事では放火によって起こることも実際にあり得るため、これは陰謀論とはいえない側面もありますが、SNSでは、著名人の一部が「この火災は放火によって引き起こされた可能性が高い」と主張しています。特に俳優のヘンリー・ウィンクラーや歌手のクリス・ブラウンがX(旧Twitter)で発言し、「誰かが意図的に火をつけた」との説を広めています。
しかし、ロサンゼルス警察(LAPD)やカリフォルニア州当局は、「現時点では放火の証拠は確認されていない」と発表しており、この主張には科学的根拠がありません。
一部の保守系論者や政治家は、「ロサンゼルス消防局(LAFD)が多様性(Diversity)、平等(Equity)、包括(Inclusion)のDEI政策に力を入れすぎたため、火災対応が遅れた」と主張しています。
ドナルド・トランプ次期大統領やイーロン・マスクもこの説を支持する発言をしており、彼らの影響力によって一部の層に広がっています。しかし、消防の専門家はこの主張を完全に否定しており、「採用基準の多様化と火災対応能力には何の関係もない」と明言しています。
これは、陰謀論の中でも特に根強い説の一つです。
一部の人々は、「政府や特定の組織が指向性エネルギー兵器(DEW)を使って、意図的に火災を発生させた」と主張しています。この説を支持する人々は、都市計画の一環として「15分都市(15-minute cities)」を推進するために土地を強制的に空けることが目的だったと考えています。
しかし、これも科学的根拠がまったくありません。DEWの存在は確かに軍事技術として研究されていますが、現実的に山火事を起こすほどの能力はなく、偶然の火災を説明する合理的な証拠もありません。
カリフォルニア州では長年、高速鉄道の建設が議論されてきました。そのため、一部の陰謀論者は「州政府が高速鉄道のために土地を確保する目的で意図的に火をつけた」と主張しています。
しかし、この主張も過去の山火事で何度も取り上げられた典型的なデマの一つであり、信憑性はありません。
こうした陰謀論が毎回のように広がるのには、いくつかの心理的な要因があります。
心理学的に、人間は「偶然の出来事よりも、意図的に引き起こされた出来事のほうが納得しやすい」とされています。
たとえば、「単なる自然災害だった」と考えるよりも、「特定の勢力が意図的に引き起こした」と考えたほうが、心理的に安心できるのです。
現代では、SNSを通じて情報が瞬時に拡散されます。その中には、公式な情報よりも センセーショナルな噂や陰謀論のほうが拡散されやすい という現象があります。
特に、X(旧Twitter)やFacebook、TikTokなどでは、アルゴリズムによって「エンゲージメントが高い投稿」が優先的に表示されるため、真実かどうかよりも「衝撃的な話」のほうが人々の目に触れやすくなります。
カリフォルニア州は民主党支持者が多い州であり、トランプ氏を支持する保守派との間で政治的な対立が続いています。そのため、今回の山火事も 「民主党の政策が原因だ」 とする説が保守派の間で広がりやすい傾向があります。
同様に、イーロン・マスクのような影響力のある実業家が特定の陰謀論を支持することで、さらに信じる人が増えるという現象も起きています。
こうした陰謀論を信じることは、単なる娯楽のように見えるかもしれませんが、実際には深刻な影響を及ぼす可能性があります。
ロサンゼルスの山火事に関する陰謀論は、今回もSNSを中心に拡散されています。しかし、放火説、DEI政策批判、指向性エネルギー兵器説、高速鉄道陰謀論のいずれも、科学的・論理的な根拠がありません。
自然災害の背後に陰謀論を見出すのは、人間の心理としてある程度は理解できます。しかし、根拠のない情報に惑わされることなく、信頼できる情報源から正確な情報を得ることが重要です。