2025年4月、アメリカで再び政権を握ったドナルド・トランプ大統領が導入した「トランプ関税」。これは単なる輸入関税ではなく、“相互主義”を掲げて各国との貿易バランスを強制的に是正しようとする、極めて強硬な経済政策です。
その中でも、現在世界中で最も深刻な影響が出ているのが「医薬品」分野。生命に直結する医薬品のコスト増加や供給網の混乱は、患者だけでなく医療現場、そして各国の政策にも深い影を落としています。
トランプ政権は2025年4月、「アメリカを再び偉大に(MAGA)」というスローガンのもと、かつての政策を大幅に強化した“関税再編成”を発表しました。
医薬品や原材料を含む製品もこれに含まれており、世界各国の製薬業界や保険システムに多大な影響が及んでいます。
世界の医薬品の原料(API)は、中国やインドといったアジアの国々に依存しています。トランプ関税によってこれらの国からの輸入コストが跳ね上がることで、以下のような事態が発生しています。
特に注射薬や抗生物質、抗がん剤など、保存が難しく迅速な供給が必要な医薬品においては大打撃です。
価格の安さゆえに多くの患者にとって欠かせないジェネリック薬は、わずかなコスト増でもその経済的メリットが損なわれてしまいます
アメリカ国内でも、低所得層を中心に医療費負担が急増する兆しが見られます。
トランプ政権は民間保険の自由競争を促す政策をとっていますが、医薬品コストの増加は最終的に保険料や自己負担の増加を招きます。
特に糖尿病や高血圧など、日常的に服薬が必要な患者にとっては死活問題です。
各国政府は、アメリカとの外交ルートを通じて、医薬品への関税を“例外扱い”とするよう強く要請しています。
ただし、トランプ政権は強硬姿勢を崩しておらず、交渉は難航しています。
アメリカ市場依存度の高い企業は、以下のような動きを加速させています。
この動きは長期的にはアメリカ国内の製薬雇用を増やすものの、短期的には混乱を生み続けるでしょう。
日本の製薬企業も大きな打撃を受けています。特にアメリカ輸出依存度の高い以下の企業は注意が必要です。
企業名 | アメリカ向け売上比率 | 関税影響 |
---|---|---|
武田薬品工業 | 約47% | 多くの主力製品が対象 |
エーザイ | 約35% | アルツハイマー薬などが影響 |
大日本住友製薬 | 約30% | 精神疾患系の薬で懸念あり |
さらに、日本国内でも以下のような影響が出始めています。
医薬品に対する関税は、食料品以上に倫理的・国際的な議論を呼びやすい分野です。今後考えられるシナリオは以下の3つです。
最も現実的なシナリオ。WHOやG7など国際機関が仲介に入り、「医薬品は安全保障ではなく人道問題」という立場から除外を求める動き。
トランプ政権が国内工場への補助金制度などを通じて、「薬もアメリカで作る時代」を本格化させる。
関税応酬が続けば、原材料供給も寸断され、最悪の場合、世界的な薬剤パニック(=医療崩壊)に至る可能性も否定できません。
関税政策は経済だけでなく、人の命や健康にも関わるものです。アメリカの国内事情や雇用対策が背景にあるとはいえ、医薬品に対してまで強硬な姿勢を取ることは、世界に混乱をもたらしています。
“アメリカ・ファースト”の影に、
“患者・ラスト”という現実が潜んでいるのかもしれません。
国際社会の冷静な対話と、製薬業界の持続的なイノベーションが今こそ求められています。