2024年、アメリカのトランプ前大統領が再び提案した「相互関税(Reciprocal Tariffs)」が、経済界や専門家の間で大きな波紋を呼んでいます。特に、その関税率の算出方法に対し、「経済的根拠がない」「数字のトリックだ」といった声が相次いでいます。
トランプ政権が提示した「相互関税」の計算式は、驚くほど単純なものでした。
貿易赤字額 ÷ 輸入額 ÷ 2
この式により、中国や日本などの貿易相手国に対して、貿易赤字の大きさを関税率に見立てるという手法が取られました。実際には「関税」そのものではなく、単に赤字の大きさから数字をでっちあげているに過ぎません。
また、USTR(アメリカ通商代表部)は、より複雑な関税率算出の式も提示しましたが、その前提となる市場の弾力性や転嫁率が不正確であるとして、経済学者たちから厳しく批判されています。
この「計算」は、実際に相手国がアメリカに課している関税率とは無関係です。例えば、日本に対する関税率が24%とされていましたが、再計算すると実際は10%ほどだったことが判明しています。
つまり、「関税を揃えるため」という大義名分は、事実に基づいていないのです。相互関税という名前が与える印象とは裏腹に、実際には「貿易赤字の見た目」に基づいた一方的な報復措置と言えるでしょう。
この手法は、貿易赤字がすべて相手国の関税のせいで生じているという誤った前提に立っています。しかし、実際には貿易赤字は各国の投資・貯蓄バランス、為替、消費傾向など多様な要因で決まるもの。関税だけで解決できる問題ではありません。
ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン氏は、「どこから批判すべきか分からないレベルの愚策」とまで語っています。
このような誤った理論に基づく政策は、経済に混乱を招くだけでなく、アメリカ自身の国益を損ねる可能性すらあるのです。
このような「見せかけの数字」に基づいて他国に高関税を課すことは、アメリカ自身の信頼性の低下にもつながります。元財務長官のローレンス・サマーズ氏も、「これは経済学に対する占星術レベルの扱い」と痛烈に批判しました。
他国との貿易交渉においても、「数字のごまかし」を指摘されることで、アメリカの発言力が低下する懸念があります。国際ルールのもとで築かれてきた信頼を、自らの手で壊しかねない行為と言えるでしょう。
トランプ氏の「相互関税」は、一見すると“アメリカの損を取り返す”ための正当な措置のように見えます。しかし実態は、事実に基づかない関税率を作り出す政治的レトリックです。
数字の見た目や響きに騙されず、私たちは常に「その数字は何を根拠に出されたものか?」「現実と一致しているのか?」を冷静に見極める必要があります。
特に選挙や外交の場面では、こうした“数字の魔法”が多用されがちです。だからこそ、メディアリテラシーと経済リテラシーの両方が求められる時代なのです。