｢四民｣・意味（べらぼう）

四民とは？

「役者は分として四民の外、世間様の外だから。」

これは、大河ドラマ『べらぼう』のセリフです。この言葉には、江戸時代の身分制度と役者の特殊な立場が反映されています。

「四民（しみん）」とは、日本の江戸時代における身分制度を指す言葉で、「士（武士）・農（農民）・工（職人）・商（商人）」の四つの身分階層を表します。この制度は、社会の秩序を維持するために定められたもので、それぞれの身分に応じた役割や職業がありました。

四民の区分と役割

1. 士（武士） – 武士は支配階級として幕府や藩の統治を担いました。武力を持ち、戦や治安維持の役割を果たす一方で、主君に忠誠を誓い、武士道の精神を重んじることが求められました。武士の家柄に生まれることでその地位が確立され、農民や町人とは明確に区別されていました。
2. 農（農民） – 農民は日本の経済基盤を支える重要な存在であり、米を生産し、それを年貢として幕府や藩に納めました。農民は土地に縛られることが多く、移動の自由も制限されていましたが、農業を通じて社会の安定を支えていました。
3. 工（職人） – 職人は建築、大工、陶芸、染物など、さまざまな工芸技術を持つ人々であり、日本文化の発展に貢献しました。特に江戸の町では、職人の技術が高度に発達し、伝統的な工芸品や建築物の多くがこの時代に生まれました。
4. 商（商人） – 商人は物資の流通を担い、経済の活性化に貢献しました。江戸時代初期には身分制度の下で武士よりも低い地位とされましたが、時代が進むにつれて経済力を持つようになり、一部の豪商は武士をも凌ぐ影響力を持つことになりました。

「四民の外」とは？

「四民の外（しみんのそと）」という表現は、この四民の身分制度に属さない者を指します。江戸時代には、四民に含まれない人々も存在し、彼らは「賤民（せんみん）」や「非人（ひにん）」などと呼ばれることもありました。これには、乞食や墓守、清掃業を営む人々などが含まれ、一般社会から隔離された生活を送ることが多かったのです。

また、四民の外には、役者や芸人、神職、僧侶なども含まれることがあります。特に僧侶や神職は宗教的な役割を果たしながらも、世俗の身分制度の枠外に置かれる存在でした。芸人や役者もまた、一般社会の価値観とは異なる世界で生きていたため、「四民の外」とされることがありました。

役者はなぜ「四民の外」なのか？

『べらぼう』のセリフ「役者は分として四民の外、世間様の外だから。」にあるように、役者は四民の枠組みに入らない存在とされていました。

江戸時代の役者は、町人文化の発展とともに歌舞伎などで活躍しましたが、身分制度の中では正式な職業とはみなされませんでした。歌舞伎役者は町人文化の象徴でありながらも、武士や商人と異なり、社会の枠組みから外れた存在として扱われていました。そのため、役者は「四民の外」とされ、世間一般の人々とは異なる独自の社会を形成していたのです。

また、「世間様の外」と言われるのは、役者の世界が一般の社会規範とは異なる価値観や慣習を持つためです。役者の世界では、通常の道徳や規則とは違う基準が存在し、自由な表現や芸が尊ばれる一方で、世間からは一段低い身分と見なされることもありました。特に女性の役者や遊女に近い存在と見なされることもあり、一般の町人とは一線を画した存在として扱われました。

役者は、江戸の町において大衆の娯楽を提供する存在として人気がありましたが、公的には不安定な職業であり、身分の保証もなかったのです。そのため、多くの役者は芸を磨きながらも、一方で生活の不安を抱え、独特の価値観を持つ世界で生きていました。

まとめ

江戸時代の日本では、「四民」という身分制度が存在し、武士・農民・職人・商人がそれぞれの役割を果たしていました。しかし、役者のような職業はこの枠に入らず、「四民の外」として扱われました。

『べらぼう』のセリフが示すように、役者は社会の通常の枠から外れた存在であり、世間とは異なる価値観のもとで生きる者とされていたのです。役者が「四民の外」とされる背景には、社会の枠組みにとらわれない自由な芸の世界がある一方で、安定した身分を持たないという側面もありました。

現代では、役者は尊敬される職業のひとつとなっていますが、当時の価値観を理解することで、より深く歴史を感じることができるでしょう。江戸時代の社会構造を知ることで、現在の芸能文化の成り立ちにも理解を深めることができます。