シチリアサマー事件 (実話)の内容

シチリアサマーは実話-ジャッレ事件の内容

映画「シチリアサマー」(英語題名:Fireworks) はシチリアの小さな町ジャッレで起こった悲劇的な実話の事件、いわゆる「ジャッレ事件」を元に作られ作品です。(作品舞台は1982年）その「ジャッレ事件」という事件はどのような内容だったのでしょうか？

ジャッレ事件：深い悲しみの背景

1980年10月、イタリア、シチリア東海岸に位置する小さな町ジャッレで、心を揺さぶる悲劇が起きました。25歳のジョルジョ・アガティーノ・ジャンモナと15歳のアントニオ・”トニ”・ガラトラが、何者かによって命を奪われました。彼らの体は、手を取り合って、互いに向かい合うように横たわっていたのです。

注）映画「シチリアサマー」の設定は1982年です。それは現実にイタリアで起きた1980年のジャッレ事件に基づいているものの、映画の中では事実を若干変更している可能性があります。映画製作では、実際の出来事を元にしながらも、ストーリーテリングや劇的効果のために、年代や他の詳細を変更することは一般的です。そのため、映画の中での出来事が1982年に設定されているというのは、芸術的なライセンスの一例と考えられます。

事件の発覚

10月31日の夜、一人のシチリアの羊飼いがレモンの木の下で、二つの絡み合った遺体を発見しました。ジョルジョとトニは、2週間前に家から失踪していました。彼らは同性愛者で地元では「i ziti」（「恋人たち」）として知られ、その関係は周囲の人々にとっては異質なものでした。

シチリア社会の偏見

当時のシチリア社会では、同性愛者に対する偏見や差別が根強く存在していました。ジョルジョとトニの関係は、多くの人々にとって受け入れがたいものでした。彼らの死は、ただの悲劇ではなく、社会の闇を浮き彫りにする出来事だったのです。

捜査とその結果

初期の捜査では、この事件は「自殺」として扱われましたが、これは間違いでした。真実は、二人が憎悪によって命を奪われたことでした。しかし、当時の社会の状況と偏見により、事件は適切に扱われることはありませんでした。

事件が適切に扱われなかった理由：

1. 同性愛に対する社会的偏見: 事件の被害者であるジョルジョとトニは公然と恋人関係にありましたが、当時のイタリア、特にシチリア社会では同性愛に対する偏見が非常に強く、このような関係は広く受け入れられていませんでした。この社会的偏見は、事件に対する公正な捜査と処理を妨げる要因となりました。
2. 捜査の不備: 初期の捜査では、この事件は「自殺」として扱われましたが、これは誤りでした。真実は、二人が憎悪によって命を奪われたことであり、この誤った捜査は、事件の真相解明を妨げました。
3. 地域社会の沈黙: 事件が発覚したとき、地元の人々はオメルタ（沈黙の掟）に従い、事件について話すことを避けました。これは、同性愛カップルの話と関連付けられたくないという地域社会の願望を反映していました。
4. 公的な認識の欠如: イタリア全体での同性愛に対する認識の欠如も、事件が適切に取り扱われない一因となりました。この事件を通じて、イタリアの世論は同性愛に対する偏見の存在を認めざるを得なくなりましたが、それは事件が起きた後のことでした。

LGBTQ+運動への影響

この事件は、イタリアにおけるLGBTQ+運動の始まりとして、重要な役割を果たしました。ジャッレの殺人事件は、同性愛者の権利と社会的受容に対する闘いにおいて、一つの転換点となったのです。

映画「シチリアサマー」とその意義

映画「シチリアサマー」は、この悲劇的な事件を描き出し、当時の社会の問題点を明るみに出します。この映画は、単なるエンターテイメントを超え、観る者に深いメッセージを投げかけています。それは、愛と憎しみ、偏見と理解、そして社会の変化の必要性についてです。

ジャッレ事件の犯人像

ジャッレの殺人事件の犯人について、捜査は一定の結論に達しましたが、完全な解決には至りませんでした。捜査により、当初、犯人として特定されたのは、トニの13歳の甥、フランチェスコ・メッシーナでした。彼は、被害者自身が彼に殺害を命じたと主張し、もし従わなければ彼らが自分を撃つと脅したと述べました。しかし、その2日後、彼はカラビニエリ（イタリアの国家警察の一部門）からの圧力の下で責任を負うことになったと主張し、自身の供述を撤回しました。

その結果、正式な犯人は特定されませんでしたが、13歳のフランチェスコが家族の命令で犯行に及んだと考えられました。さらに、ジョルジョとトニは、幸せになることができないと確信し、自らの死を受け入れていたとする主張もありました。この事件を受け、イタリアの世論は同性愛に対する偏見の存在を認識せざるを得なくなりました​

この事件がもたらした影響

ジャッレの殺人事件は、イタリアにおけるLGBTQ+コミュニティと社会全体に多大な影響を与えました。この悲劇的な事件は、イタリアの町々の心の奥深くに根強く存在していた同性愛に対する偏見を露わにし、国内に衝撃を与えました​​。

この事件は、イタリアのLGBTQ+権利運動の「触媒」とされています。事件の約一ヶ月後の1980年12月9日には、イタリアで最も重要なLGBTQ+団体であるアルチゲイ（Arcigay）の最初の核となるグループが、パレルモで元司祭のマルコ・ビスチェリアによって設立されました​​​​。

さらに、この事件の40年後の2020年10月31日には、ジョルジョとトニの遺体が発見された日にちなんで、ジャッレで同性のカップルの民事結婚式が行われました。この式典は、ジャッレの市長アンジェロ・ダンナによって執り行われ、新郎新婦はジョルジョとトニの墓に花を捧げました​​。

これらの出来事は、イタリアにおける社会的な認識と態度に大きな変化をもたらしました。ジャッレの殺人事件は、社会の不公正と偏見に対する意識を高め、LGBTQ+コミュニティの権利と受容に向けた重要なステップとなったのです.。